
皆さん、こんにちは。臨床心理士、公認心理師のNicoです。
Nicoの心理療法の庭へようこそ。

今日も一緒に心理学や心理療法について勉強しよう!
今日のテーマは、【臨床心理士・公認心理師が解説】心理療法と精神療法の共通点と違いです。
心の悩みについて相談ようと思って、インターネットや本屋で調べると、
- 心理相談
- 心理療法
- 精神療法
- サイコセラピー
- カウンセリング
- 心理カウンセリング
など、いろんな名前が出てきます。
しかし、利用者の立場からすると、
- 一体どう違うのかわかりにくい、どれを選べばいいのかわかりにくい
と感じませんか?
そうした用語のわかりにくさが、専門家への相談のハードルをあげているとしたら、非常に残念です。
そこで、この記事ではまず、名前が似ている心理療法と精神療法の共通点と違いについて解説します。

論者や理論によって、細かな違いはありますが、
まずは大枠の理解をもつことが重要だよ。
心理療法とカウンセリングの共通点・違いについては、また別の記事を書きますので、お待ちください。
この記事を通して、用語の違いがわかれば、巷にあふれる情報をご自身で読み解き、より適切な相談相手を見つけやすくなると思います。
結論から言えば、
- 精神療法も心理療法も共にPsychotherapy(サイコセラピー)の訳語。
- 日本では、医師が行うのが精神療法、非医師が行うのが心理療法とすることが多い。
- 精神療法の多くは、保険診療制度の下で行われるので、薬物療法と併用した短時間の支持的関わりを中心に組み立てられる。
- 心理療法の多くは、実費である分、時間を確保でき、報酬の安定により心理療法の質の安定・向上を望みやすい。
となります。

それでは、もう少し詳しく見ていきましょう!
1.日本語に翻訳する際のイメージの違い
実は、精神療法も心理療法も、共にサイコセラピー(Psychotherapy)の訳語です。
そのため、両者は「本質的には同じ」です。
その中心的な意味は、
セラピスト(治療者)とクライエント(患者・来談者)という仕事を通しての対人関係・心理的関係によって、クライエントを援助すること
にあります。より詳しくは#1心理療法(カウンセリング/セラピー)って何をするの?をご覧ください。

では、なぜ違う訳語になったかというと、「精神」「心理」という日本語に伴うイメージの違いのためです。
松井・大橋(2004)によれば、「精神療法」の方が先に一般に用いられていました。
しかし、「精神療法」という言葉のもつ呪術的・宗教的なイメージを避け、臨床にたずさわる者すべての共有財産にするために「心理療法」という新しい訳語が提案されたそうです。
確かに、今でも患者さんのお話を聞いていると、「精神科」「精神病」といった言葉には、怪しげなイメージが残っているように感じられます。
しかし、医師の間では先に「精神療法」の方が定着していたこともあり、日本では、医師が行う場合に精神療法、医師でない人が行う場合に心理療法と呼ぶことが多いというのが実情だと思います。
2.薬物療法の可否と保険診療制度の適用による違い
本質的には同じとは言え、精神療法と心理療法には大きな違いもあります。
それは、
- 心理療法は、基本的にクライエントごとにまとまった時間を取って行う
- 精神療法は、外来精神科で行われている短時間の診療を基本とするが、まとまった時間を取った本格的なものも含まれる
という点です。

この違いは、いくつかの要因からなります。
一つ目は、薬物療法の可否
1950年代にはじまる、向精神薬の発見によって、精神医学・医療は大きく変わりました。
それによって、比較的短時間の支持的な精神療法(診察)でも一定の効果をあげ、多くの患者を診ることが可能になりました。
投薬は、医療行為ですので、精神療法との併用ができるのは医師に限られます。
二つ目の要因は、医師は保険診療制度の下にあること
保険診療制度は、広く国民に対して最低限の医療を保証するものです。
そのため、精神科では診療時間に応じた報酬(単価)が定められています。
ただ、長時間になるほど相対的に報酬は低くなってしまいます。
それゆえ、病院の経営を維持してゆくためにも、多くの患者を診る必要があります。
また、医師一人に対して来院する患者数も非常に多いです。
そうした理由から、診察1回あたりの時間は必要最低限になってしまいます。
単純計算ですが、
- 8時間の診察で45人の患者を診る場合、
- 60分×8÷45人=10.66分/人
と一人当たり10分ほどが限界ですが、私の経験では、実はこれはかなり余裕がある方です。
実際には、もっと沢山の患者を診ている医師も多いと思います。
そのため、一人一人の患者にたっぷりと時間を取った本格的精神療法を行う医師は少なくならざるを得ないでしょう。

また、実際的にも、精神科医の笠原(2007)は、平均的な精神科外来について
- 神経症圏に対しては支持療法、表現療法といった一般的、非特異的な精神療法が主体になり、奏功するケースが少なくない
- 訴えの内容がいかにも深刻な人生問題のようなのに、薬物が比較的容易にその苦悩を軽減させることは、稀ならずある
- 精神分析や森田療法といった本格的で特異的な精神療法が必要とされることは稀である
ということを述べています。
こうした事情から、精神科外来では、短時間の支持的な精神療法を中心に診療が組み立てられていると考えられます。
ただ、そうした非特異的な精神療法は、「医師個人の常識や好みにまかされ、とりたてて議論されることが少なかった」(笠原,2007)とも言われています。
それは診察時間の短さと相俟って、「ちゃんと話を聞いてくれない」「薬を出すだけ」「冷たくあしらわれた」といった患者の不満のもとになることも多いと思われます。

心理療法が保険診療の対象となる、あるいは実質無料の場合
一方で、非医師が行う心理療法が保険診療の対象となるには、「医師の指示の下」など、さまざまな条件を満たす必要があり、回数制限もあります。
また、その診療報酬も、医師が行った場合に比べて低いものとなっているようです。
あくまで一例ですが、
「小児特定疾患カウンセリング料」の保険点数(1点が10円)
- 医師による場合 月の1回目 500点 2回目 400点
- 公認心理師による場合 200点
また、医療機関によっては、医師の診察を行い、通院精神療法の費用を取ったあと、心理職による心理療法を無料で提供している場所もあるようです。
このような仕組みは一見、利用者に優しいのですが、問題がないわけではありません。
それは、
- 病院としての利益が増えない分、心理職の報酬が低くなる。
- 収入の少ない心理職は、資質向上に必要な研修費を捻出できない。
- 結果的に、受けられる心理療法の質が低下するおそれが出てくる
ということです。

そうならないために、医療機関でも自費診療として心理療法を提供しているところもあります。
ただ、その場合でも、診療報酬の改訂によって一部保険適用になり、それに合わせて自費診療の価格も下げざるを得なくなり、心理職の報酬低下に繋がるおそれも出てきています。
保険診療制度の対象外にある心理療法の強み
現時点では、心理職が行う心理療法の多くは、保険診療制度の対象外となっています。
これらは全額自費になりますが、その分、しっかりと時間を確保できるという強みもあります。
また、十分な報酬を受け取れば、心理職が積極的に研修を受け、より質の高い心理療法をクライエントに提供できるようになるとも考えられます。
まとめ 精神療法と心理療法の異同・長所と短所
今回は、精神療法と心理療法の共通点と違いについて、薬物療法の可否や保険診療制度と絡めて、以下の内容をお伝えしました。
- どちらもサイコセラピーの邦訳だが、訳語に伴うイメージは異なる。
- ただ、仕事を通しての対人関係・心理的関係によって、クライエントを援助するという本質は同じ。
- 医師が行うのを精神療法、非医師が行うのを心理療法と呼ぶことが多い。
- 保険診療での精神療法は、薬物療法と組み合わせた短時間の診察になることが多い。
- 保険診療での心理療法は、制限が多い他、心理職の報酬の低下による質の低下の恐れがないわけではない。
- 自費での心理療法は、費用はかかる分、時間を確保でき、心理療法の質の安定・向上も望みやすい。
読者の皆さんがどの部分に価値を見出すかによって、精神療法か心理療法かの選択が分かれるかと思います。
また、薬物療法を主体とした医師の診察と、自費での心理療法の併用というのも選択肢のひとつです。
その場合は、心理療法を受けたい旨を主治医の先生に相談し、現時点で心理療法を受けて問題ないか確認しましょう。
心理療法の申込に際しては、主治医の診断書を求められることが多いことも付言しておきます。
以上、参考になれば嬉しいです。

このブログは、心理学や心理療法(カウンセリング)についての情報を発信することで、読者の皆さんが、心理療法をもっと身近で、よりアクセスしやすいものと感じられるようになることを目指しています。

それでは今日も、ありがとうございました!
文献
- 笠原 嘉(2007)精神科における予診・初診・初期治療.星和書店.
- 松井江美子・大橋一惠(2004)「精神療法」.氏原 寛・亀口憲治・成田善弘・東山紘久・山中康裕(共編)心理臨床大事典[改訂版].培風館,777‐780.

Nico
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